患者さんの声 「からふる」専門家と共に考える
寒冷凝集素症(CAD)座談会
宮川 義隆 先生
埼玉医科大学病院 血液内科 教授
寒冷凝集素症(CAD)は、免疫系の異常により、血液中の赤血球が破壊(溶血)されて貧血が起こる慢性の血液の病気です。CADの患者さんでは低温によって赤血球がかたまり血流を妨げたり、溶血を起こしたりすることで、さまざまな症状が現れます。CADは自己免疫性溶血性貧血の1つに分類され、国の指定難病として認められています。しかし、非常にまれな病気のため、情報を得ることが難しく、多くの患者さんで診断が遅れ、適切な治療を受けられていないことが課題となっています。
本座談会では、CADの診療経験を積まれている宮川義隆先生と3名のCAD患者さんにお集まりいただき、それぞれの患者さんのご経験、病気との向き合い方をお話しいただきました。
メンバー
ー診断までの経緯ー
貧血の原因がわからなかった
最初に体に異変を感じてから、寒冷凝集素症(CAD)と診断されるまでの経緯を教えてください。
健康診断で貧血を指摘されたのが受診のきっかけです。ただ、最初に貧血と指摘されたときには症状もなく、大したことはないだろうと思ったため受診せず、次の年の健康診断で再び貧血を指摘されてから、近くの大学病院の血液内科を受診しました。
大学病院で血液検査をしたのが夏で、ヘモグロビン値は10g/dLほど、ビリルビン値が高かったため、肝臓疾患を疑われて消化器内科を紹介されました。また、がんによる貧血を疑われ、胃カメラ、大腸カメラ、CT検査や婦人科検査をしましたが、異常は何も見つかりませんでした。秋には、朝起きたときの手のこわばりが現れたため、リウマチ・膠原病科で血液検査、手の関節超音波検査やレントゲン検査を受けましたが、ここでも異常はありませんでした。
大学病院で血液検査を毎月続けていたところ、冬に近づくにつれて貧血が悪化し、倦怠感も感じるようになりました。寒冷凝集素の値が高いことがわかっていたので、ヘモグロビン値が8g/dLへ下がったところで、別の大学病院の血液内科へ紹介され、そこでCADと診断されました。最初の受診から診断までは半年ほどかかりました。
私が貧血を指摘されたのは20年ほど前、50歳代くらいでした。近くのクリニックで健康診断を受け、ヘモグロビン値が6~7g/dLほどしかなかったため地域の医療センターへ行きました。そこで血液検査のほか、私もがんや出血を疑われ、胃カメラ、大腸カメラ、皮膚生検を行いましたが、原因になるような異常は何も見つかりませんでした。
ひどい貧血なのに原因がわからず悶々としていたところ、たまたま知り合いの医師と話す機会があり、別の病院へ検査入院しました。血液検査から骨髄検査まで行い「溶血が起きている貧血」であることはわかりました。病名が判明するまでにはさらに数年がかかりましたが、その後、自己免疫性溶血性貧血の1つであるCADと診断されました。
近所の内科クリニックで胆石の治療をするために血液検査をしたとき、貧血であることがわかりました。自覚症状はなかったのですが、ヘモグロビン値は8g/dLほどで、すぐに胃カメラ、大腸カメラを受けた後、血液専門医のいる血液内科クリニックへと紹介されました。そのときは冬で、尿が赤くなる、足が痛くなるといった異変も感じていましたが、その症状が何によるものなのか、わかっていませんでした。
血液内科クリニックでは血液検査を行い自己免疫性溶血性貧血のなかでも“温式”だと診断されて、治療を開始しました。しかし、その間も冬には貧血が悪化して、脾臓摘出を検討するために、病院の血液内科へと紹介されました。そこでCAD、つまり自己免疫性溶血性貧血の“冷式”と診断がつきました。結局、貧血が指摘されてからCADと診断されるまで、2年近くかかりました。
医師は貧血を見たら、胃がん・大腸がん、胃潰瘍、女性では子宮がんや子宮内膜症などによる出血を原因とした貧血を考え、検査します。皆さんは貧血で受診後すぐに胃カメラ・大腸カメラなどの内視鏡検査を受けられ、これらが原因でないことは確認されていますね。しかし、そこからCADの診断までに時間がかかり、大変だったと思います。血液内科だけでなく、内科、消化器科、リウマチ内科、循環器内科など、診断されるまでに複数の診療科に行くことも少なくありません。CADはとても珍しい病気なので大学病院の血液専門医でも経験が少なく、なかなか診断に至らないのが実情です。
私は診断がつかないまま大学病院へ通院を続けていたものの進展がないことに不安を感じ、主治医の先生に相談しました。すると、この領域に詳しい先生のいる別の大学病院へと紹介していただき、そこで診断をつけていただくことができました。
やはり、何か不安があれば、目の前の主治医とセカンド・オピニオンについて相談してみることが大切ではないかと思います。CADと診断されたときは、どのようなお気持ちでしたか?
病名がわかってよかったと私は思いました。診断がつくと、情報を集めてみようという前向きな気持ちにもなりました。難病という言葉には重いイメージがありましたが、私は診断からまだ2年目で貧血がそれほど重くないので、CADの本当の大変さがわかっていないのかもしれないと感じています。
私の場合、溶血性貧血は起きているが診断がつかない時期が数年あり、生活で何に気をつけたらよいかもわかりませんでした。診断されてからは、体を冷やさないように気をつけ、治療を開始することもできました。
手足の先端がちょっと痛いくらいの病気だと思っていたので、難病だということを知って驚きました。自分が難病になるとは考えてみたこともなかったからです。主治医から「これ以上に悪化したら、別の治療を始める必要があるかもしれない」と言われたときは、かなり戸惑いました。
日常生活における症状との付き合い方
CAD症状の
日常生活への影響
CAD患者さんではさまざまな症状が現れますが、貧血による疲労感や倦怠感は9割の患者さんが感じているという報告もあります1)。
疲労感は皆さんの日常生活にどのように影響していますか?
私は貧血になる前は走るのが好きで、フルマラソンにも何回か出場したことがあります。貧血を指摘された最初の夏も、その次の夏もとくに疲れを感じることはありませんでした。しかし、受診した年の冬には、走ると息が続かず、数十メートルで体を前に進めることができなくなっていました。苦しくて走ることはやめました。また、外出すると「疲れたな」「横になりたい」「家に帰りたい」と感じるようにもなりました。
私は都内に友達が多く、以前はよく出かけて交流していたのですが、病気になってからあまり出ていかなくなってしまいました。習い事も、道具を持って出かけて帰ってくることが辛くなり、やめました。また、元気なときには週1回はプールに通っていましたが、温水でも上がったときにブルブルッと強い寒気を感じるようになり、入れなくなってしまいました。
私は在職中に、疲労感が強いときや気分が悪いときには仕事を休んでいました。
とくに冬には体調が悪く、休むことが増えていました。
貧血で具合が悪くなり、救急車で運ばれたこともあります。家から病院まで電車とバスを乗り継ぎ1時間ほどなのですが、電車で座っているときから体が急に熱くなって気持ち悪さを感じ、駅に着いて歩きはじめると目の前が揺れるようになったのです。先生に「ホームの端を歩かないように」と言われていたのを思い出し、ここで倒れたら周りにも迷惑がかかると思って駅員さんに助けを求めました。意識ははっきりしていたのですが、苦しくて歩けない状態でした。このように倒れそうになるのは、たいてい、日常生活で忙しくて疲れやストレスが多かった時期だったと思います。
CADの症状悪化の要因として、冷えのほかに、ストレスや疲労などがあります。無理をせず、睡眠を長めにとり、ゆっくり休むことをお勧めします。
冷えと循環障害、
溶血による症状
CADでは血液が冷えると寒冷凝集素(自己抗体)が赤血球に結合して、痛みや変色などの末梢循環障害を起こしたり、溶血(赤血球の破壊)による貧血を起こしたりしてしまいます。ですから、CADの患者さんでは、体を冷やさないようにすることが大切です。CADの循環障害や溶血の症状は冷えが原因になりますが、皆さんはどのようなときに症状が現れますか?
水仕事が症状の現れるきっかけとなります。冬に朝食を作ったり、洗濯物を干すなどの水仕事をしたりしたとき、手先が冷えて色が変わり痛みます。そんなときには循環障害が起きているのかなと思いました。その数時間後にトイレに行くと、溶血による症状であるヘモグロビン尿が出ていることが多いです。
だんだん寒い季節になってくると、尿の色が黄色から赤色へ少し変化し、12月ごろにもなるとコーラのような色になってしまいますね。気温が下がってくる秋冬は嫌な季節です。床を歩くと足先は紫色になり、しびれを感じることもあります。
私も皆さんと同じで水仕事の後に手が痛くなり、数時間後にヘモグロビン尿が出ます。水仕事のほかにも、金属のドアノブ、冷たい缶、冷凍食品など、冷たい物を触ったときには症状が現れます。スーパーに買い物に行くときは、かごやカートを素手で触るだけで症状が出るので、いつも軍手をしています。
冷蔵庫の缶ビールは、触るとすぐに指先が白くなります。
熱が伝わりやすい金属製の物はとくに注意が必要だと思います。
日常生活での工夫
体調を崩さないように気をつけていることや、工夫していることを教えてください。
コロナ禍でほぼ在宅で仕事をしていた冬の時期、室内をエアコンで暖かくするのに加えて、厚手の靴下を履き、足元にファンヒーターを置いて暖めていました。
冬は洗濯物を外に干すのをやめて乾燥機を使ったり、床暖房を入れたりしています。
夏には外から帰宅するとエアコンをつけて室内をいったん冷やしますが、つけたままだと寒すぎるので、エアコンは切って扇風機を回しています。家族や友達にとっては暑いようですが。
この病気になってから、保温のための手袋と靴下は季節にかかわらず欠かせなくなりました。保温性が高い肌着やズボンの重ね着なども利用するようになりました。
冷えから手を
守る小物
いま、水仕事をするときの手袋を探しているのですが、家庭用ビニール手袋では薄すぎるし、だからといって冷凍庫内で作業するような業務用手袋では厚すぎてゴワゴワで家事がしにくくて。
私も手袋をいろいろ買ってみましたが、家事をするのにちょうどよい物はなかなかないですね。
電熱グローブは、手にはめて電源スイッチを入れると内蔵ヒーターが手全体を温めてくれます。僕はいつも家に置いておき、手が冷えて痛くなったときに、これに手を入れて温めています。本来はバイク用ですが、今日持ってきてみました。
ストーブの前に手を置くような温かさですね。これはいいかもしれない。
私は電源を入れると素早く温めてくれる、充電式カイロも使っています。
これは小さくて外に持っていけますね。
すごく温かい。使い捨てカイロは時間がかかるけれど、これはすぐに温かくなりますね。
ポケットに入れておくとよいですね。
皆さん、素敵な物をお持ちいただきありがとうございました。
治療の情報を求めて
それぞれの向き合い方がある
CADは患者さんの数がとても少ない希少疾患のため、病気に関する情報収集は容易ではなかったと思います。
診断されたころに大きな本屋さんに行って探しましたが、家庭の医学のような一般向けの本にも、百科事典にもCADは載っていませんでした。患者さん体験談のようなものも当時は見つかりませんでした。
インターネットで調べると情報は出てくるのですが、用語がわからず、内容も専門的すぎて、読んでもあまり理解できませんでした。情報量が非常に少なかったので、情報を集めるために私は患者会に入りました。
患者会では、セカンド・オピニオンという選択肢もあることを知りました。勇気を出して主治医の先生に話をしたところ、理解していただいて、セカンド・オピニオンに行くことができました。
どのような病気で治療法は何かと調べましたが、当時は情報があまりなく、一般的なイメージから、治療にあまり積極的になれませんでした。私は診断されてからまだ2年目なので、これからも専門の先生にお話を聞くなど、情報を集めてみようと思います。
ご自身の経験を踏まえて、ほかの患者さんに伝えたいことやアドバイスをお聞かせください。
診断がついて、体調が辛いなか「難病」だと言われると、不安になったり気持ちが落ち込んだりすることもあるかもしれません。同じ病気のいろいろな患者さんと情報を共有してお互いに励まし合うことができると、生きる勇気が湧き、前向きに進んでいきやすいのではないかと思います。
私は2回目の貧血の検査結果で受診したのですが、女性なら貧血はよくあること、大したことはない、悪いはずはないと、軽く考えがちでした。健康診断の結果は自己判断で軽視せず、早めに病院を受診したほうがよいと思いました。
先生を信頼して、よく相談することが大事だと思います。私は診断数年後から貧血が徐々に悪化し、何回も入院し、毎週輸血したり、治療を受けたりしても改善しない時期がありました。本当に辛くて主治医の先生に改めて相談しました。私たち患者は目の前の先生にしか、しがみつけないのですよね。その結果、病院の先生方が情報を集めてくださり、専門の先生に出会う転機が訪れました。
貧血が改善すると、家の前の坂を楽に歩けるようになりましたし、友達に会いに出かけたり、旅行に出かけたりもできるようになりました。
実は私がBさんの病院の先生にご紹介をいただきました。先生を信じるBさんのために、主治医ほか病院の先生方が情報を求めて動かれて、出会いにつながったのだと思います。20年を超えるご経験のなか、いろいろご苦労もあったと思います。ぜひ、今をお楽しみいただければと思います。
皆さん、貴重なご経験をお話しいただきありがとうございました。今回のお話が、まだ診断がついていない方、治療を受けられていない方の気づきとなり、道が開けることを願っています。
CAD:cold agglutinin disease(寒冷凝集素症)
参考文献 1)Florence J, et al. JMIR Form Res. 2022;6(7):e34248.
寒冷凝集素症(CAD)の理解が広まり
患者さんがより快適に過ごせるように
CADは最近になって病気のしくみが明らかになり、新しい情報が少しずつ増えている病気です。これまで、なかなか診断されずに多くの患者さんが大変な思いをされてきましたが、診断と治療の進歩とともにCADへの理解が広まることで、早期の診断が実現し、より効果的な治療が患者さんのもとに届けられることが期待されています。私たち血液専門医も新しい情報を取り入れ、患者さんの治療に活かせるよう日々勉強しています。診断や治療に明るい見通しが持てないようなときも、あきらめずに主治医と相談し、少しでも快適な毎日を過ごしていただきたいと思います。
宮川 義隆 先生
(開催日:2023年4月30日
会場:サノフィ株式会社本社 会議室)
※すべての寒冷凝集素症の患者さんが同様の経過をたどるわけではありません。
ご自身の症状で気になることや治療に関することは、主治医またはお近くの医療機関にご相談ください。
「からふる」では、実際の体験談や専門家との座談会などを通じて、さまざまなCAD患者さんの日常生活の工夫や気持ちの変化をご紹介し、CAD患者さんのよりよい日々の助けになるようなコンテンツをお届けしています。
MAT-JP-2307286-1.0-10/2023
最終更新日:2023年10月31日